津波による溺水を探る

津波被害対策ー溺水シミュレーションモデルの開発

津波被災時の主要な死亡原因は,水に飲み込まれる溺死とされています.すみやかな避難がもっとも優先される対策ですが,万が一避難が間に合わない場合の次善策として救命胴衣(ライフジャケット)が注目されています.実際にいくつかの自治体では公共施設への配置が進められつつあります.

一方,津波は非常に強い流速を持って押し寄せます.また,市街地などに侵入した津波は家屋などにより3次元的に変化する複雑な流れを生じることになります.現在,市販されているライフジャケットの多くは一般的な水難事故を念頭に開発されており,強く複雑な流れを持つ津波にも十分な性能を持つかは不明なままです.

我々の研究室では,ライフジャケットをはじめ,津波における溺水対策の有効性の検証&改善を目指し,流れと人体姿勢変化(運動)を同時に解析できるシミュレーションモデル(DRUM)の開発を進めています.

新たなシミュレーションモデルでは,腕や足など複数の部位が関節で接続されたものとして人体をコンピュータ上で表現し,同時に人体周辺の流れを3次元数値解析により求めます.水から人体に加わる非定常的な力と,それぞれの関節に作用する力を考慮したうえで,人体の各部位の回転・並進運動を計算し,水中での人体の姿勢変化を再現しています.

上に示したアニメーションは,津波が構造物背面で引き起こす渦により人体が水中に引き込まれる過程を解析した結果です.シミュレーションにより,渦による圧力低下によって人が水中に引き込まれることが判明しています.

新たなシミュレーションモデルの開発では,実際の観測結果をモデルが正しく再現できるのかを確認することが欠かせません.この研究では,港湾空港技術研究所,海洋研究開発機構の研究者の方々により行われた,大型造波水槽での人体ダミー実験結果をもとにモデルの再現性確認を行っています.