自然環境では実験室の水槽とことなり明確な境界はありません.水環境の研究では,時として数十〜数百キロメートルに及ぶ広大な領域を解析する必要が生じます.また,水環境で生じる現象は,雨季と乾季のように数ヶ月〜数年の長い期間の影響の総和として生じることもあります.一般に広大な領域を長い期間について解析するには,非常に長い計算時間(プログラムを計算機で実行するのに必要な時間)が必要となります.さらに,津波の波高予想などのシミュレーションを防災に役立てるには,地震発生後から沿岸へ津波が襲来するまでの短い時間でシミュレーションを終了しなければなりません.
以上のように,水環境研究では時として,短い時間で高速に計算が可能なシミュレーションモデルが必須となります.本研究室では,計算の高速化手法としてGPGPU技術に着目し,様々な高速シミュレーションモデルを開発しています.GPGPU技術とはGPUと呼ばれるPCの拡張カード(ディスプレイへ画像を描画する)を科学技術などのシミュレーションに用いる情報技術です.GPU内には数千に登る計算ユニット(通常のCPU内のcoreに相当します)が搭載されています.特別なプログラミングにより,これらの計算ユニットを同時に用いて一つのシミュレーションを行い計算を高速化します.計算手法と問題により変化しますが,おおよそ数十倍〜百倍程度の高速化が実現しています.
GPUの例(Nvidia Tesla)
GPUの内部構造(GPU内部の数千個の計算ユニットSPを利用し高速な計算を実現)
GPGPUシミュレータの例(東北地震に伴う津波伝播の再現計算)
津波第一波は約30分後に沿岸に到達したが,従来のPCを用いた計算では5時間程度必要としていたものを,GPGPUを用いることで数分間で計算することが可能となった.計算の高速化により細かい地形まで表現でき,水深変化による波高の局所的増加や,半島などを回りこむ様子などが計算できている.
GPGPUによる氾濫シミュレータ
アフリカセネガル川下流域の氾濫解析事例を示す.100km以上の広大な地域について30mごとに氾濫の可能性と流れを解析可能となった.1年間を通じた氾濫域の解析をわずか2時間で完了している.
4次元波浪シミュレータ
強風により水面に生じる波をエネルギー平衡方程式に基づき解析する.平面座標に加え,波の周波数と進行方向を計算する必要があり,解析は4次元空間内での波エネルギーの伝播を求める必要があり,通常のPCでは実用的な時間で広い範囲の解析は困難であった.下のアニメーションは,GPGPUを用いた計算(左側)と通常のPCによる計算(右側)を比較したもので,数十倍の高速化が実現されている.