津波にのみこまれた場合など,水難事故における危険性を評価するには流れと人の相互作用を解析可能なシミュレーションモデルが有効です.本研究室では3次元的な流れ場の解析と,関節を考慮した人体姿勢の変化の解析を組み合わせ,それらの相互作用を考慮しつつ,流れと人体運動を同時に解析可能な新なシミュレーションモデル,DRowning hUman Model (DRUM)を開発しています.
DRUMの計算例
① ローヘッドダム(頭首工)での溺水危険性評価
河川に設置されるローヘッドダム(頭首工)は水難事故が多発する危険な流れとして知られています.DRUMにより,救命胴衣を着用した場合を解析し,救命胴衣の着用が水面への浮上を促し,事故の生存性が向上することを確認しています(発表論文はこちらからダウンロードできます)
(1) 救命胴衣を着用しない場合
(2) 救命胴衣を着用した場合
②高所からの落水事故の傷害リスク評価
橋など高所から水面へ落ちる落水事故の危険性を評価した事例です.人体が水面や河床に衝突する際の衝撃力がDRUMにより計算されます.自動車事故等の評価方法を用いることで,人体に加わる衝撃力(加速度)から想定される傷害の種類や深刻さ,生存率を算出しています.(発表論文はこちらからダウンロードできます)
(1)立位姿勢
(2)うつ伏せ
③堰を持つ河道内での人体の動き
水難事故の被害者は河の流れにより下流へ運ばれると考えられます.河底に設置された堰に被害者が留まる条件を調べることで,捜索範囲の絞りこみによる迅速な捜索救出活動の実現を目指した研究です(発表論文はこちらからダウンロードできます)
④DRUMモデルについて
DRUMモデルでは人体の関節をモデル化しています.左は関節を考慮した場合,右は関節を考慮しない場合で,関節の動きを計算して人体の姿勢変化を考慮することで沈みこむ過程が大きくことなることがわかります(DRUMモデルの詳細はこちらの学会論文をご参照ください)
波高7mの津波を模擬した計算例
段差背面渦による巻き込み
DRUMの基本コンセプト
流れは空気と水を同時に解く3次元混相流動解析により求め,人体姿勢の変化はリンクモデル(人体を関節で接続された剛体の集合として模擬)を用いて解析する.流れと人体の相互作用は,流れ中の圧力を人体の表面について積分することで,人体各部位に働く力を算出することで表現される.
人体の表現方法
電子データをもとに人体各部位の形状をシミュレーション上で表現する.
人体各部位の運動は,回転と並進運動を関節からの力や流体からの力を考慮して計算される.関節運動は実際の関節の稼動範囲データをもとに,その範囲のみ動くように制限されている.
モデルの検証実験
DRUMによる計算の正確さの検証のため,レーザーと画像解析を用いて流速分布を計測するPIV実験を行なっている.